■PMBOK ドリルダウン!_No.26
リスクマネジメント (26)
2005.06.08
前回は、定量化分析について説明しました。本日から、リスク対応計画の説明に入ります。
なお、本日は、演習問題付きです。ご期待ください。
【リスク対応計画とは何か?】
まず、目的、目標、実践で必要となる手法についてざっと説明します。
1.目的
プロジェクトライフサイクルを通じて、望ましくないリスクを軽減し、プロジェクト目標を達成するための計画を立てる為に行います。
2.目標
(1)リスク対応計画書を作成します。
(2)残存リスク(リスク対応を実施しても残ってしまうリスク)と2次リスク(対応策を実施することによって、新たに発生するリスク)を把握します。
(3)リスク対応計画とプロジェクト計画を統合します。お互いに整合性を合わせる必要があります。
3.実行可能な対応策を検討する上で重要なこと
リスク対応にかけるコスト、労力、時間(1) < リスクが発生した場合の影響度・期待値(2)
(1)が、(2)を上回らないことが重要です。上回ったら、何のためのリスク対応か分からなくなってしまいます。
4.リスク対応手法について
リスクの性質に応じた対応手法を適用する必要があります。
(1)回避:マイナスのリスクによってもたらされる脅威を取り除いたり、プロジェクト目標にリスクの影響が及ばないように、スケジュールの遅延やスコープの縮小など、達成が危ぶまれる目標を緩和したりするために、プロジェクト計画の変更を行なうことです。
(2)軽減:有害なリスク事象の発生確率や影響度を、受容可能な限界値まで低減することです。
(3)転嫁:脅威によるマイナスの影響を、責任者とともに、第3者へ移転することです。
(4)受容:プロジェクトからすべてのリスクを除去することはほとんど不可能なために採用される戦略です。
【演習課題】
このリスクマネジメントのコーナーを始めてから、半年以上が経過しています。今まで、学んだことを基本として、演習課題を通して、リスク識別、リスク分析、リスク対応計画がどのように繋がるのか考え方をご理解ください。それでは、演習課題に入ります。
1.演習課題
現在、主人公の佐藤さんは、開発プロジェクトのプロジェクトマネジャーを任されています。要件定義工程が完了した時点で見積りを行なった結果、不正確なコスト見積りにより、コスト超過になるのではないかと心配するようになっています。
佐藤さんは、最も関心を持っている事象は、「製造工程の時点でコスト超過が明らかになる」です。また、その事象が発生した場合、経営者・顧客との軋轢(あつれき)、納期の遅れなど影響も考えられますが、「プロジェクトを中止」することに重大な懸念を抱いています。
プロジェクトでは、見積支援ツールを用いていません。過去の蓄積データベースも存在しません。ファンクションポイントのような見積り尺度に基づいた資源見積りが行なわれていません。プロジェクトの規模、言語、技術要件、技術者スキル、その他の影響要因の考慮が見積り時に不十分でした。また、プロジェクト内には、見積り計測の専門家が存在しません。事業部長(上司)からは、要件定義の完了レビューで、見積りミスの懸念を指摘されています。
2.設問1:佐藤さんのプロジェクト状態を考慮して、影響(リスク)、リスク事象、根本原因を整理し、その関係を図で示しなさい。
皆さんは、以下の回答を出来るだけ見ないで、まず、考えてください。
3.設問1(回答)

いかがですか? 最も関心を持っている事象をリスク事象とし、最大の懸念事項を、影響(リスク)を考えましょう。
根本原因は、後で、対応策を考える上で必要な情報となります。以降、リスク項目として、リスク事象「不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる」、影響(リスク)「プロジェクト中止」のどちらも採用することは可能ですが、どちらを選択するかで、リスク分析時に影響度、発生確率、対応策が異なることになります。ここでは、リスク事象をリスク項目として、以下話を進めて行きましょう。
4.演習課題
主人公の佐藤さんは、不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる以外に、さらに別の2つのリスクがあることに気がつきました。佐藤さんは、以下の状況から、顧客受け入れ検査の段階で、顧客の期待に合致しないので受け入れできなくなる影響があるかも知れない。
【状況】
・ 要件定義が完了した時点で、顧客の業務イメージが少し柔らかかった。
・ 要件定義工程を時間切れで完了としたことで、要求仕様自体が誤りやあいまいさを多く包含していることが、一部の顧客から指摘されている。
もう1つのリスクは、以下の状況から、製造工程から参画する協力会社(A社)のプログラマーが、スキル低下でプロジェクトの生産性が低下、低品質となる影響があるかもしれない。
【状況】
・ A社には、製造工程で必要となる要員全体の3割を外部委託する予定。
・ その要員は、当社での開発経験は無い。また、プログラミング経験が浅い要員が数名存在する。
5.設問2:佐藤さんのプロジェクト状態のリスト分析結果を基に、リスク項目、影響度、発生確率、格付けを求めなさい。
【記入例】
| リスク項目 |
影響度 |
発生確率 |
格付け |
| 不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる |
大きい |
普通 |
高位 |
| 0.80 |
0.5 |
0.4 |
| ? |
? |
? |
? |
| ? |
? |
? |
? |
| ? |
? |
? |
? |
| ? |
? |
? |
? |
皆さんは、以下の回答を出来るだけ見ないで、まず、考えてください。
6.設問2(回答)
【記入例】
| リスク項目 |
影響度 |
発生確率 |
格付け |
| 不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる |
大きい |
普通 |
高位 |
| 0.8 |
0.5 |
0.4 |
| 顧客受け入れ検査の段階で、顧客の期待に合致しないので受入れできなくなる |
大きい |
普通 |
中位 |
| 0.8 |
0.1 |
0.08 |
| 協力会社(A社)のプログラマーが、スキル低下でプロジェクトの生産性が低下、低品質となる |
やや小さい |
低い |
低位 |
| 0.1 |
0.1 |
0.01 |
7.演習課題
佐藤さんは、「不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる」リスクを積極的な管理対象にし、残りの2つのリスクは管理対象外にすることに決定した。彼は、根本原因に基づいた行動計画が必要だと知り、根本原因を熟考し、リスク解決のために何をすべきかを考えた。彼が考えたリスク事象の根本原因とそれに対する予防計画のリストは以下の通りです。
| 根本原因 |
対応策(予防計画) |
実施するか? |
| 1.見積ツールを用いていない |
1.他部署で活用している見積り支援ツールを適用し、適切に用いる |
はい |
| 2.過去の蓄積DBが存在しない |
1.市販の見積DBを購入し、参考情報として活用する |
はい |
| 3.規模、言語、技術要因、スキル等の影響要因が考慮不足 |
1.次回見積り時に、プロジェクト特性として、規模、言語、技術要因、スキル等の影響要因を考慮して見積もる |
はい |
| 4.見積計測の尺度無し |
1.論理的根拠が説明出来る規模計測の尺度(例:ファンクションポイント法など)を採用する |
はい |
| 5.見積り計測の専門家が存在しない |
1.品質保証部の見積り計測専門家へ技術支援を依頼する |
はい |
8.設問3:佐藤さんの予防計画リストを基に、対応方法を検討し、リスク対応計画を完成させなさい。
| リスク項目 |
影響度 |
発生確率 |
格付け |
方法 |
対応策 |
| 不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる |
大きい |
普通 |
高位 |
軽減 |
他部署で活用している見積り支援ツールを適用し、適切に用いる |
| 0.8 |
0.5 |
0.4 |
? |
市販の見積りDBを参考にする |
| ? |
次回見積り時に、プロジェクト特性(規模、言語、技術要件、スキル等)を考慮する |
| ? |
論理的根拠が説明出来る規模計測の尺度(例:ファンクションポイント法など)を採用する |
| ? |
品質保証部の見積り計測専門家へ技術支援を依頼する |
回答を見ないで、考えてみてください。
方法には、「回避」「軽減」「転嫁」「受容」の4種類がありました。
9.設問3(回答)
| リスク項目 |
影響度 |
発生確率 |
格付け |
方法 |
対応策 |
| 不正確なコスト見積りにより、製造工程の時点でコスト超過が明らかになる |
大きい |
普通 |
高位 |
軽減 |
他部署で活用している見積り支援ツールを適用し、適切に用いる |
| 0.8 |
0.5 |
0.4 |
軽減 |
市販の見積りDBを参考にする |
| 軽減 |
次回見積り時に、プロジェクト特性(規模、言語、技術要件、スキル等)を考慮する |
| 軽減 |
論理的根拠が説明出来る規模計測の尺度(例:ファンクションポイント法など)を採用する |
| 軽減 |
品質保証部の見積り計測専門家へ技術支援を依頼する |
10.継続的監視
以下に製造工程の開始前の時点で、佐藤プロジェクトの行動計画の結果と、影響度、発生確率を示します。
| 対応策 |
結果 |
影響度 |
発生確率 |
格付け |
| 他部署で活用している見積り支援ツールを適用し、適切に用いる |
見積り計測専門家が、見積り支援ツールを用いることで、見積りシミュレーションが出来た |
大きい |
低い |
中位 |
| 市販の見積DBを参考にする |
見積り支援ツール搭載されている見積りDBを参考に見積りを実施した |
0.8 |
0.1 |
0.08 |
| 次回見積り時に、プロジェクト特性(規模、言語、技術要件、スキル等)を考慮する |
見積り支援ツールに装備されている見積りモデル(プロジェクト特性に応じて、生産性・納期・品質のシミュレーションが可能)を活用し、威力を発揮した |
? |
? |
? |
| 論理的根拠が説明出来る規模計測の尺度(例:ファンクションポイント法など)を採用する |
要件定義の完了時点では、簡易FP法(SPR法)、外部設計以降では、IFPUG法を採用して、論理的根拠に基づく規模計測が出来た |
? |
? |
? |
| 品質保証部の見積り計測専門家へ技術支援を依頼する |
工程完了の都度、見積り計測専門家の技術支援を受けることが可能となった |
? |
? |
? |
ここでの着目点は、対応策を実施したことで、リスク対策の軽減効果があり、発生確率が低下し、格付けも「高位」から「中位」になっています。発生確率は時間と共に変化して行きます。つまり、継続的な監視が必要であるということです。
お疲れ様でした。