■PM Tools A to Z_No.32
クリティカル・チェーン(1)
2005.11.16
PMBOKガイド第3版プロジェクト・タイム・マネジメント知識エリアの「スケジュール作成プロセス」におけるツールと技法では、新たにクリティカル・チェーン法が挙げられています。
今回から数回にわたって、このクリティカル・チェーン法を紹介します。
- 始めに
著書「ザ・ゴール」でTOC(Theory Of Constraints:制約条件の理論)を紹介したエリヤフ・ゴールドラット博士は、その後の著書「クリティカル・チェーン」で、プロジェクトマネジメントに対してTOCの適用を試みています。その中で、クリティカル・パスにクリティカル・リソース(ボトルネックとなるリソース)を勘案した新たなパスをクリティカル・チェーンと呼んで、重点的にコントロールすべきとしています。
TOCによるプロジェクトマネジメント手法は、スケジュール・マネジメントの領域をカバーするものですが、さらにリスクやリソースの競合にも対応できるとしています。
- PERT手法によるスケジュール・マネジメント
現在使用されているスケジュール・マネジメント技法の主なものとしてはPERT(Program Evaluation and Review Technique)があります。その特徴の一つとして3点見積法による所要期間見積りによってスケジュール・リスクに対応することがあります。(PM Tools A to Z No.4「スケジュール作成技法(2)」参照)
3点見積法では各アクティビティの完了時間の不確実性に対してベータ分布を適用します。ベータ分布はその分布形状を見ると、裾野が左側は短く、右側が長いものです。このことは、アクティビティの所要期間を見積る場合、おおよそ次のことが言えることを示しています。即ち、ほぼ確実に(例えば90%の確率で)完了する期間の見積りは、平均的に(例えば50%の確率で)完了するそれの、時には3倍程度にもなる。
したがって、もし所要期間を1点で見積る場合、見積り者は安全を見込んで(リスク発生を見越して)90%くらい確かな期間を見積るもので、その期間は相当長めになるはずだということを表しています。
しかるに、ほぼ達成可能なスケジュールを見込んだプロジェクトであるにもかかわらず、実際には頻繁に納期未達に陥るのはなぜでしょうか?
<筆者>
筆者の経験では、各アクティビティを90%達成確率で見積るとプロジェクトの目標納期を大きく越えてしまうことが常ですから、現実には最初からより高いリスクを抱えたスケジュールを設定せざるをえないことが多いです。
- PERT手法の問題点
ゴールドラット博士は、そこには人間心理の問題が深く関わっていると指摘しています。即ち、せっかく確保した安全余裕を無駄にしてしまう人間心理の仕組みです。
それは、早く終ってもそのことを報告しないため余裕は次のアクティビティに伝播しない、しかし遅れは確実に伝播する、余裕があっても納期間近まで着手しないのでその余裕はすべて失われてしまう、というものです。特に後者を学生シンドローム(症候群)と博士は呼んでいます。
PERT手法では、この人間心理の問題が考慮されないので、実行結果は計画から乖離してしまうとされます。
<筆者>
この人間心理の問題は、作業実態の正確な把握や綿密なコミュニケーションによって、かなりの部分をコントロールすることができると思っています。
- リソースのボトルネックも考慮
プロジェクトでは、必要リソースのアベイラビリティがスケジュール・マネジメントに大きく関わってきます。特定のリソースに複数のアクティビティを並行的にアサインしなければならない局面はたくさんあります。その特定リソースのスケジューリングがボトルネックとなるとクリティカル・パスが延びてしまったり、他のリソースが遊んでしまったりすることになります。
<筆者>
プロジェクト・スケジュールを作成するとき、当然必要リソースのアベイラビリティを勘案した実行可能なものにしようとします。不確定要素がある中でリソースの山積みと山崩しがスケジューリングの難しい部分です。
ボトルネックとなるリソースの都合を優先して全体スケジュールを立案すべき、という考え方は参考になります。
- 全体最適化のアプローチ
PERT手法によるスケジュール・マネジメントでは、すべてのアクティビティを(クリティカル・パス上のアクティビティもそうでないアクティビティも等しく)計画通りに実行するようにマネジメントすることにフォーカスしています。これは部分最適化のアプローチと言えます。
他方、TOCによるプロジェクトマネジメント手法では、プロジェクト全体のボトルネックであるクリティカル・チェーンのマネジメントにフォーカスしています。これは全体最適化のアプローチです。
プロジェクトの目標の一つである納期を遵守するためには、部分最適化ではなく、全体最適化が達成されればいいというのがクリティカル・チェーン法の骨子です。
次回はボトルネックを守る方法について紹介します。
| 参考文献: |
- PMBOK(R) ガイド第3版 PMI
- ザ・ゴール エリヤフ・ゴールドラット著 ダイヤモンド社
- クリティカル・チェーン エリヤフ・ゴールドラット著 ダイヤモンド社
- TOCクリティカル・チェーン革命 稲垣公夫著 JMAM
|
※PMBOKはProject Management Instituteの米国及びその他の国における登録商標です。