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PM雑記帳

■PM Tools A to Z_No.20
  PMBOK立ち上げプロセス考

2005.03.16
PMBOK2000年版における「スコープ・マネジメント」知識エリアの「立ち上げ」プロセスでは、新しいプロジェクトの発足や既存プロジェクトにおける次のフェ−ズへの移行を公式に認可する、とあります。
筆者はプロジェクトマネジメント研修でPMBOKの解説をする機会がありますが、受講者のうち少なくない方が、立ち上げプロセスで少し混乱してしまう場合があります。
今回はこの立ち上げプロセスについて、特に新しいプロジェクトの発足の場面に絞って考察します。

始めに、上記の観点からのPMBOK「立ち上げ」プロセスを確認しておきましょう。
立ち上げプロセスはプロジェクトの選定をして、プロジェクトの部外者でかつプロジェクトのニーズに相応したレベルのマネジャーがプロジェクト憲章を発行してプロジェクトを公式に認可する。また立ち上げプロセスでは、原則プロジェクト・マネジャーの任命も行う。
これがPMBOKの立ち上げプロセスのあらましです。
以下、立ち上げプロセスに関して、二つの点について見ていきます。
それらは、「プロジェクトの立ち上げ誘因」と「プロジェクトの選定」です。

  1. 「プロジェクトの立ち上げ誘因」について
    PMBOKでは、プロジェクトの公式な立ち上げに必要な認可を得るための誘因として以下のことを挙げています。
    • 市場の要求
    • ビジネス・ニーズ
    • 顧客の要求
    • 技術の進歩
    • 法的要求
    • 社会的ニーズ
    これらの誘因によって、新たなシステムや製品・サービスの創出が企業・母体組織の中で、例えば経営戦略策定段階(企画段階)で検討され、その結果がPMBOKでいうところの「成果物記述書」や「戦略計画」として具現化されます。
    つまり、前記のプロジェクトの立ち上げ誘因とは、新たなシステムや製品・サービスを創出することになる誘因のことを意味しています。

    企画段階に続く実現段階では、作成された成果物記述書や戦略計画をインプットとして企画を実現させるためのプロジェクトを立ち上げます。このエントリー・ポイントが立ち上げプロセスです。
    こう考えると、前記の「誘引」は間接的なプロジェクト立ち上げの誘因ともなっているわけです。


  2. 「プロジェクトの選定」について
    PMBOKの立ち上げプロセスの目的の一つにプロジェクトの選定がありますが、これは、1で企画されたシステム・製品・サービスについて、その実現方法を複数の代替案で検討し、その中から実現可能性や費用対効果などの点で最も適切な案(プロジェクト)を選定することです。(全く選定できない場合もありえます。)

以上の1、2をまとめると、(1)内外の様々な誘因によって、新たなシステム・製品・サービスの創出が企画・決定され、(2)その実現のために複数の代替案が検討され、それらの中から適切なプロジェクトが選定されて立ち上げられ、(3)そのプロジェクトに対してマネジメント・プロセスとしてPMBOKが適用される、ということになります。
このことはPMBOKの立ち上げプロセスに概略的に記述されていますが、(1)、(2)、(3)の境界が明確に説明されていないために、PMBOKを勉強する人に分かりにくさを感じさせているのではないでしょうか。

具体的には、PMBOK「立ち上げ」プロセスの目的としての「プロジェクトの選定」と、それを支援する技法である「プロジェクト選定手法」の記述から、プロジェクト立ち上げ以前のいわゆる企画段階も含めた「企画+実現(開発)」段階を一つのプロジェクトとして捉えて、PMBOKを適用しえるかのように誤解されるかもしれない点です。

なお、プロジェクト選定手法は、プロジェクトの進行中にも、そのプロジェクトを続行させるかどうかの判断材料を得るのに使われます。PMBOK立ち上げプロセスが各フェーズの始めにも置かれているのはこのためですね。

さて、ここで以上のことをライフサイクルの概念を導入して整理しておきます。
ライフサイクルには「プロジェクト・ライフサイクル」と「プロダクト・ライフサイクル」の2つがあります。
これらの関係は一例として次ページの図のようにモデル化できます。

<図1> 2つのライフサイクル(例)


PMBOKは単一プロジェクトのマネジメント・プロセスを中心としたフレームワークなので、上のモデルでいうと「構築」ステージがプロジェクト・ライフサイクルを定義でき、PMBOKが適用できます。
また、「計画」や「設計」ステージについても、プロジェクトの要件を満たせば、プロジェクト・ライフサイクルを定義して、それぞれPMBOKを適用することもできるでしょう。
しかし、PMBOKではこれらすべてのプロジェクトを包括的にマネジメントすること、これはプログラムマネジメントないしはポートフォリオ・マネジメントの領域になりますが、これには適用しにくいと考えられます。

なお、新たにリリースされたPMBOK第3版では、立ち上げプロセス群として、「プロジェクト憲章作成」と「プロジェクト・スコープ記述書暫定版作成」の2つを設定しています。「プロジェクト憲章作成」プロセスでは、プロジェクトの認可はプロジェクト憲章によってなされること、プロジェクト憲章の作成と認可はプロジェクトの外部で行われることなどが明記されており、2000年版と比べ、内実は一緒ですが、理解しやすくなっています。

いずれにしても、PMBOKの立ち上げプロセス群にある、2000年版の「立ち上げ」プロセス、第3版の「プロジェクト憲章作成」プロセスは、プロジェクトの立ち上げ段階においてはプロジェクトの外に置かれるプロセスとみなせます。これらのプロセスは、プロジェクトマネジメントと、プログラムマネジメントないしはポートフォリオ・マネジメントとの境界領域に位置しているとも考えられる、特異なプロセスなのではないでしょうか。

次回は、「立ち上げ」プロセスのツールと技法の一つ「プロジェクト選定手法」について説明する予定です。

参考文献: 1.PMBOK(R) ガイド2000年版 PMI
2.PMBOK(R) ガイド第3版 PMI

※PMBOK、PMPはProject Management Instituteの米国及びその他の国における登録商標です。