PM雑記帳

■PM Tools A to Z_No.19
  契約(3)

2005.03.02
始めに、前回までに紹介してきた請負契約と準委任契約について、ソフトウェア・サービス案件に対してどちらの契約形態を選択すべきかをまとめておきます。

◆請負契約が適している案件
契約対象が明確に定義された成果物またはサービスである必要があります。
明確に定義されている場合には、納入者が予定を超えたコストに対してリスクを負うことになります。明確に定義されていない場合には、購入者も納入者もコスト・リスクを負う場合が通常です。
  • 確実性が高く、正確な見積りができること。
  • 顧客との明確な責任分担ができること。
  • 成果物やサービスの仕様、品質レベル、納期などに関してコミットメントができること。
  • 一般に、適用できるフェーズとしては、システム設計フェーズ、開発(ソフトウェア開発・システムテスト)フェーズなど。

◆準委任契約にすべき案件
請負契約の場合と逆になります。
リスクの観点でみると、契約時点でコストがどの程度掛かるか推測しにくいために、購入者にコスト・リスクが生じます。
また、納入者に対してコスト・コントロールの意識を期待しにくい面があります。
  • 不確実性(リスク)が高く、正確な見積りが難しい場合
  • 顧客との明確な責任分担が難しい場合
  • 成果物やサービスをきちんと定義することが難しい場合
  • 一般に、適用できるフェーズとしては、企画フェーズ、分析フェーズ、導入フェーズなど。
なお、(社)情報サービス産業協会(JISA)では、そのホームページ上に「ソフトウェア開発委託モデル契約」を掲載しています。これは、「システム仕様書作成業務」と「ソフトウェア作成業務」の2種類の委託契約(両方とも請負契約)をモデル化したものですが、その違いは顧客が作業に関与する度合いに応じたものと推測されます。即ち、「システム仕様書作成業務」は、納入者がソフトウェア作成業務を実施する際の基準文書を作成するもので、購入者との共同作業が必須とされるべきものです。一方「ソフトウェア作成業務」は、作成・合意されたシステム仕様書にしたがって、後は納入者の責任と管理によって作業を進めた方が効率的なケースです。
参考までに、上記モデル契約書に関するURLを掲げておきます。
http://www.jisa.or.jp/activity/guideline/dev_contract2002.html


さて、ここまで、日本におけるソフトウェア・サービスに関する契約形態を見てきましたが、ここで、PMBOKの調達マネジメント知識エリアで定義されており、PMP認定試験にも出題される契約形態についても触れておきましょう。

PMBOKガイドでは3種類の契約形態が定義されています。
  (1) 定額契約または一括請負契約(Fixed-price contracts / Lump-sum contracts(FP))
  (2) 実費償還契約(Cost-reimbursable contracts(CR))
  (3) T&M(タイム・アンド・マテリアル)契約(Time and material contracts)


(1)定額契約または一括請負契約
納入者側の掛かったコストに係らず、契約された定額が購入者から支払われる契約形態です。支払金額が固定されるため、購入者にとってコスト・リスクが小さく、逆に納入者にとってはそれが大きい契約となります。
これは日本における請負契約と同様のものです。
この契約形態には次のようなものも含まれます。
  • Fixed-price incentive fee(FPIF)
    目標を上回る成果に対して、納入者にインセンティブを与える契約形態です。
    例えば、納期より早い完成、事前合意済みの品質基準を上回る成果などがインセンティブの対象になります。
  • Fixed-price economic price adjustment(FPEPA)
    プロジェクトが複数年にわたるような場合、物価変動などのコスト変動要素を価格に反映させることを可能にする契約形態です。

(2)実費償還契約
実コストに、納入者の利益相当分を加えた金額が購入者からに支払われる契約形態です。契約時点では支払金額が分からないため、購入者にとってコスト・リスクが大きく、逆に納入者にとってはそれが小さいかまたは無い契約となります。
具体的には次のようなものです。

  • Cost plus fixed fee(CPFF)
    実コストに納入者の利益相当分(固定金額)を加える契約形態です。
  • Cost plus incentive fee(CPIF)
    実コストにインセンティブを加える契約形態です。インセンティブの対象としてはFPIPの説明に掲げたようなものがあります。
  • Cost plus award fee(CPAF)
    実コストに特別成果報酬を加える契約形態です。CPIFと似ています。
    なお、CPIFやCPAFのような契約形態は、元来、土木・建築業界で使用されているもので、予定納期の前倒しなどを狙いとしたものですが、最近ではソフトウェア・サービスの分野でも使用されているようです。しかし、日本ではまだこれからでしょう。
  • Cost plus percentage of costs(CPPC)
    実コストにその一定の割合の金額を加える契約形態です。
    この契約は米国政府系調達では不可とされているものですし、また、一般に購入者側としても受け入れられない契約です。その理由は歴然ですね。

(3)T&M契約
これは実費償還契約と定額契約の両面を合わせ持つ複合型の契約形態です。
固定額の契約ではないので、支払金額が分からない点は実費償還契約と同じです。また通常、単価(人月単価など)を固定した契約となりますが、この点は定額契約と類似しています。
なお、単価を固定した契約形態を単価契約(Unit price contracts)という場合もあります。これは契約時に合意した作業単価にしたがって支払いがなされるものです。



参考文献: 1.PMBOK(R) ガイド2000年版 PMI
2.PMP(R) Exam Prep-Fourth Edition, Rita Mulcahy, RMC Publications, Inc.
3.JISAソフトウェア開発委託モデル契約

※PMBOK、PMPはProject Management Instituteの米国及びその他の国における登録商標です。