■PM Tools A to Z_No.6
アーンド・バリュー・マネジメント(1)
2004.08.25
今日から3回にわたりアーンド・バリュー・マネジメント(EVM)を取り上げます。
平成14年3月、プロジェクトマネジメント研究会発行の報告書「政府のITサービス調達の運用に関する提言」にて、政府系IT調達に関するプロジェクトマネジメントの強化とEVMによる進捗管理などが掲げられ、それを受けて同年、情報処理振興事業協会から「EVM活用型プロジェクトマネジメント導入ガイドラインの作成」が発表されましたが、今後EVMによるプロジェクトの実績管理は、官・民ともにますます普及していくものと思われます。PMBOK(R)でも、プロジェクトの実績管理をEVMで行うことを推進しています。
EVMは、プロジェクトの進捗状況(コストとスケジュール)をアーンド・バリューにより定量化し、プロジェクトの現在および将来の状況を評価する手法です。ある作業のアーンド・バリューとは、その作業を実施したことにより得られた、出来高の価値(金額換算)のことです。 EVMでは、まず次の3つの基本値を理解しておく必要があります。
◆EVMの3つの基本値
- PV(Planned Value)
計画価値。計画された作業に対する予算化されたコストのことで、進捗判断の基礎
になります。
- EV(Earned Value)
アーンド・バリュー。ある特定の時点で完了している作業に対する計画上の予算化
されたコストのことで、その時点までに完了した作業の価値を表します。作業が完
了すると、その作業のEVとPVは一致します。
- AC(Actual Cost)
実コスト。ある特定の時点で完了している作業に対して実際に費やされたコストの
ことで、言い換えれば、EVを得るためにかかった実コストのことです。
◆EVMと実績測定ベースライン
EVMのためには、ボトムアップ・アプローチによる詳細なスケジュール計画とコスト計画を必要とします。これら承認済の計画をそれぞれスケジュール・ベースライン及びコスト・ベースラインと呼びます。
- スケジュール・ベースライン
プロジェクト・スケジュールのことで、スケジュールの実績を測定し、報告する際の基準となるものです。
- コスト・ベースライン
時間軸に展開したプロジェクト予算のことで、通常PVと同じものです。
PMBOK(R)ではこれらを実績測定ベースライン(Performance Measurement Baseline)と呼んでいます。(実績測定ベースラインには、他にスコープ・ベースラインなどもある。)
EVMを行うには、この実績測定ベースラインが決まっていないといけません。
これはEVMが有用と認められるための重要なポイントです。また、EVMは導入し難いものという理由のひとつでもあるでしょう。
◆実績測定ベースラインの設定
ここで、EVMの要である実績測定ベースラインについて、その設定プロセスを見てみます。WBSの重要性を改めて認識することになります。
- WBSの作成(「スコープ定義」プロセス)
プロジェクトのスコープを決めるために要素成果物を要素分解してWBS(Work Breakdown Structure)を作成します。WBSの最下層をワークパッケージ(Work package)と呼びます。WBSはプロジェクトのスコープ・ベースラインを定義するものです。
- コントロール・アカウントの設定(「コスト見積り」プロセス)
EVMは、通常、ワークパッケージのレベルでスケジュールとコストの管理をします。しかし、プロジェクトによっては、幾つかのワークパッケージをまとめた上位層で管理をする場合もあります。このような管理の単位となるWBS要素は、コントロール・アカウント(Control Account)と呼ばれ、通常、この単位で予算が割り当てられてコスト集計処理が行われます。
<図1>
≪コラム・横道 〜 その1≫
EVMはプロジェクトを金額価値という一つの共通指標で評価しますが、実際のプロジェクトではプロジェクト・マネジャーが現場の進捗を金額換算して把握するのは現実的ではない場合もあります。よく使われるのは工数による進捗管理です。また、その管理の単位も、コントロール・アカウントやワークパッケージのレベルとするのは、プロジェクトによっては管理対象として大きすぎるかもしれません。
そこで、ワークパッケージをさらに1〜5人日程度のアクティビティ・レベルまで要素分解(本シリーズNo.2参照)し、現場では週単位にアクテイビティを対象に工数ベースでEVMによる進捗管理をします。その結果を月単位にコントロール・アカウントのレベルでコスト集計(工数からコストへ変換)し、上位マネジメントにはこのレベルの進捗を報告します。このような「変形」EVMによる管理は結構実際的です。
ただし、この方法で注意すべきことは、「工数」は共通指標になりにくいという点です。例えば、システム設計とコーディングでは作業単価(コスト)が異なるのが普通です。
つまり、異なる単価の作業を有するプロジェクトでは、工数によるEVMとコストによるEVMでは進捗度が一致しない場合があるということです。運用上この点に注意を払う必要があります。
≪コラム・横道 〜 その2≫
EVMを実践するには、プロジェクトをサポートするシステムがなければなりません。前出の「プロジェクトマネジメント情報システム」などがそれにあたりますが、コスト・ベースライン、コントロール・アカウント、ワークパッケージ、アクティビティなどの単位に計画と実績が管理でき、プロジェクト・マネジャーがタイムリーに必要な管理指標値を得ることができるシステムです。また、実効的なプロジェクト遂行プロセスが構築されている必要もあります。このようなプロジェクト・インフラストラクチャーが整備され、それが適切に運用・改善されるような組織としての成熟性、これがないと、EVMの導入はもとより、プロジェクト自体を繰り返し成功に導くことは難しいでしょう。
もうひとつ述べれば、EVMはきわめて有効なプロジェクト状況測定技法ですが、所詮「ものさし」です。ものさしの精度と測られるものの本質とは何の相関もないのです。先に述べた『組織の成熟性』が一つのキーワードでしょうか。
さて、EVMの発展の歴史については他書にゆずりますが、「日経コンピュータ2002.8.26号 徹底解説!世界標準に沿ったプロジェクトマネジメント(岡村正司氏著)」などに詳しく説明されています。
≪コラム・横道 〜 その3≫
その昔、筆者の勤務していた外資系汎用機メーカーでPERT/COST手法のパッケージ・ソフトがあり、お客様への導入コンサルを担当したことがあります。PERTを原価管理に適用させたPERT/COSTは、米国国防総省とNASAの共同研究で1962年に手法として確立されています。思い起こせば、PERT/COSTには既にEVMの概念、即ち、予算(PV)、実績(AC)、完了作業の当初見積額(EV)が実装されていました。
当時はアーンド・バリューという用語は目にしませんでしたが、EVMは40年の歴史があるのですね。
次回はEVMで使われる用語、各指標の算出方法と意味などの説明です。
| 参考文献: |
- 平成14年度情報技術・市場評価基盤構築事業「EVM活用型プロジェクトマネジメント導入ガイドラインの作成」ガイドライン 情報処理振興事業協会
- アーンド・バリューによるプロジェクトマネジメント 第2版
Quentin W. Fleming & Joel M. Koppelman, PMI(東京支部監修)
日本能率協会マネジメントセンター
- 経営実務シリーズ PERT入門 刀根 薫 著 東洋経済新報社
- PMBOK(R)ガイド 2000年版 PMI
|
※ PMI、PMBOK、PMPは、Project Management Instituteの米国及びその他の国における登録商標です。